「T-Rell – We Don’t」他、週刊新譜る10（2019/4/10~17）

週刊新譜る10 [2019年4月10日～17日分]

直近7日間にリリースされたアメリカのHipHop/R&Bの新譜や新作ミュージックビデオの中から、”これだけは抑えておきたい10曲”を厳選して紹介している当サイトのメインコーナー。今回は2019年4月10日から17日の間にリリースされたものから選出。

T-Rell – We Don’t feat. OMB Peezy & Snap Dogg

Kansas州Topekaのラッパー、T-Rellの新作ミュージックビデオ。California州RichmondからOMB Peezyと、Michigan州DetroitからSnap Doggを招いた曲。全米各地で発生している警官によるアフリカ系アメリカ人への発砲～暴行事件を取り上げた社会的な楽曲・ビデオでありながら、音楽的な完成度も高く、特に主役のコーラスが病み付きになる。

Tone Tone & Tory Lanez – Give It To Ya 

Detroitのラッパーで、”～各地で進化を続けるTrapに夢中になった1年～Playlist:「The Best of 2016“にも選出したTone Toneの新作ミュージックビデオ。ローカルなギャングスタラップ感が強い男だったが、Tory Lanezを招き別人かと思うようなサウンドを聴かせる。拍子抜けしてしまう程の変貌振りだが、より全米規模での展開を視野に入れている証拠だろうか、このキャッチーさ/スムースさは強烈だ。

Tech N9ne – N9NA 

Missouri州Kansas Cityのラッパー、Tech N9neの新作ミュージックビデオ。本曲は昨年シングルとしてリリースされていたが、間も無くリリースされるアルバム”N9NA”にタイトル曲として収録されるようだ。”速射系ラッパーによる客演を招かない曲”となると一本調子なりがちだが、展開が変わる構成や自身の名をコーラス隊が歌うフックなど、かなり個性的で飽きさせない。アメコミ調のビデオと合わせて一つの作品として楽しめる。

Nicole Bus – You (Remix) feat. Rick Ross 

オランダ出身で、現在はJay-Zが主宰するレーベル「Roc Nation」に所属するシンガー、Nicole Busの新曲ビデオ。”The Charmels – As Long as I’ve Got You”をサンプリングしたビートで、元ネタ中の一節も飛び出す”You”に、Rick Rossが参加したリミックスバージョン。（同じ曲をサンプリングしている”Wu-Tang Clan – C.R.E.A.M.[1993]”を本曲の元ネタと解説するサイトも見られたが、厳密にはどちらが使われているのか不明。当記事では歌詞も含まれる点から上記を元ネタと判断。）突如世界が広がり伸びやかな歌声を披露するコーラス前、C.R.E.A.M.と同じループ上で歌われるコーラス、Rick Rossのボス然たるフロウと聴きどころ満載。

Kendra – Goodbye

New YorkはBrooklynの女性ラッパー、Kendraの新作ミュージックビデオ。まだメディア等への露出は無いに等しいようで彼女の存在や楽曲についての詳細は不明だが、”Ashanti – No Where”をサンプリングしたと思われるしっとりとしたビートを器用に乗りこなすラップはなかなか。荒削りながら激情型～メロディアスなフロウを使い分ける姿からは、今後大きく化ける可能性も感じさせる。

2 Chainz – 2 Dollar Bill feat. Lil Wayne & E-40

Georgia州College Park出身のラッパー、2 Chainzの新作ミュージックビデオ。楽曲を手掛けているのはTerrace Martin、DJ Mustard、GYLTTRYPと完全に西海岸向けな制作陣で、E-40名義なのかと思うような曲。そのため主役とLil Wayne＝南部勢には非常に珍しいサウンドとなっており、ホームとアウェーが逆転した新鮮な印象を受ける。

Suigeneris – Dancin

California州San Joseのラッパー、Suigenerisの新作ミュージックビデオ。彼は昨年Lil Skiesを招いた”Now”でその名を知られることになったメキシコ系のアーティストで、サウンドやルックスもSkiesのような”そちら系”と言えば分かりやすいか。本曲は気だるさ一歩手前の独特なユルさが癖になる。

Khalid – Talk Remix feat.
Megan Thee Stallion & Yo Gotti  

Georgia州Fort Stewart出身のシンガー、Khalidの新曲。2019年4月5日にリリースされた2作目のアルバム「Free Spirit」に収録された”Talk”に、Texas州Houstonの女性ラッパーMegan Thee Stallionと、Tennessee州MemphisのYo Gottiを招いたリミックス。原曲そのままのスムースなビートに、2名の実力派ラッパーが加わったことでメリハリのある一曲に。楽曲を手掛けているのはDisclosure（Sam Smithのプロデュースで知られるUKの制作デュオ）で、US勢とは一味違ったサウンドとYo Gottiの組み合わせが特に新鮮だ。

ScHoolboy Q – CHopstix (with Travis Scott)

Los Angeles はSouth Los Angeles出身のラッパー、ScHoolboy Qの新作ミュージックビデオ。Houston出身のラッパーTravis Scottを招き、お目当ての箸（＝女性の脚）を開かせようと色男振りを聴かせる。Kendrick Lamarを手掛けたことでも知られるL.A.のプロデューサーDJ Dahiによる、ストリングスを大胆に使ったビートも怪しさ満点。

Offset – Clout feat. Cardi B

Georgia州Lawrenceville出身でラップグループMigosの一員、Offsetの新作ミュージックビデオ。昨年末～今年始めにかけて離婚～復縁と世間を騒がせた二人のコラボ曲。ビデオの撮影時期は不明だが、現在は完全に復縁したと見て良さそうだ。彼らのバカップル振りはさておき、楽曲の方はAtlantaの808 MafiaからSouthsideと、ドイツ出身でUS Trap勢を多数手掛けるデュオCuBeatzがプロデュースしており手堅いサウンド。ダークな語り口の主役、キレキレなCardi、と対照的な両者のラップが絶妙な采配。

週刊新譜る10 [2019年4月10日～17日分] まとめ

今週は、T-Rell、Tone Tone、Tech N9neと中西部のラッパーを多めにピックアップ。東でも西でも南でもない、或いはそれらを断片的に取り入れた独特なサウンド（”中西部”といっても広く、かなりザックリとした強引なまとめ方ではあるが・・）は面白く、他地域に比べ存在感が劣るようにも感じられる”ミッドウェスト”の魅力を再確認出来た。中でも”T-Rell – We Don’t”は、社会性のあるトピックを味のあるフロウで聴かせる完成度の高い楽曲だった。

皆さんも気になった曲はあっただろうか？是非新譜のチェックに活用していただきたい。