Clever ~バトルMCから大きな変貌を遂げたアーティスト~

Clever ~バトルMCから大きな変貌を遂げたアーティスト~
 

人種的にもサウンド面においても、かつてのようなバリアを打ち破り、あらゆる意味で“ボーダレス”に進化している昨今のHipHopシーン。従来のファンがどう感じるかは別にしろ、HipHopは日々変化している。例えば、インディアンの血を引きラップから歌(それもロック寄りの)までこなすPost Malone辺りは、そういった変化を躊躇に感じられる存在と言えるだろう。

そんなPost Maloneに通じるサウンドで、このボーダレスなシーンの流れを一層加速させそうなアーティストがいる。アラバマ州ガズデンのCleverという男だ。



どこかボサっとした外見で、憂鬱さを含んだメロディアスなフロウを聴かせる。Post Maloneをナードにしたようなその姿は好みが分かれそうだが、2019年5月にリリースされた“Stick By My Side”のミュージックビデオ一つで、彼の現行シーンらしいヴォーカルスタイルは確認出来る。まさにTrapの全盛期以降、またはTy Dolla $ign、Fetty wapら以降のアーティストという印象を受けるが、彼はこういった音楽のフォロワー世代という訳ではない。



彼が全国区的なメディアに登場した時期は意外と古く2006年まで遡る。この年人気テレビ番組106 & Park内のフリースタイルバトルコーナーFreestyle Fridayに出場を果たしたことが、恐らく初の全国区的な露出だろう。この時点ですでに地元ラジオ局でのラップバトルにおいてチャンピオンに輝いていたり、グループとしても活動していたようで、実はPost Malonよりも遥かに活動暦は長い。(年齢も10歳程Cleverが年上だ。)

冒頭で「Post Maloneに通じるキャラクター」と述べたが、元々はバリバリのフリースタイルラッパー。この辺りを思うと、HipHop的には好印象と言えよう。実際2013年にリリースされた“Nobody Can Save You”では、Eminemを彷彿とさせるバトルラッパー特有のキレキレなラップを聴かせている。



翌2014年には、西海岸の鬼才Fredwreckがプロデュースした“Pay Day”にて、Snoop Dogg 、The Eastsidazと共演。LBC的なスムースなビートに合わせ、ユルく涼しげなヴォーカルを披露している。同曲はEastsidazのミックステープ「That’s My Work 4」(datpiffなどでは彼の名はクレジットされていないため、知らずに聴いていた方も多いのでは?)と、Fredwreckの「Greatest Hits Vol.3」に収録され、今後の活躍を予感させた。



そして2019年3月。Juice WRLDのアルバム「Death Race for Love」に収録された“Ring Ring”に客演として招かれ、Cleverにとってはこれが最大の出世曲に。曲中彼は2番目のヴァースのみに登場するが、客演で招かれた身でありながら主役以上に強烈な存在感を放っていた。エレキギターをメインループに使ったビート上で、ロックシンガーのような感情的なフロウを聴かせる・・と、文字だけでもPost Maloneに通じるサウンドだとお分かりいただけるだろう。

前述の”Stick By My Side“に加え、週刊新譜る10(2019/7/3~7/10)に選出した”All In feat. Polo G & G Herbo“と、ここへ来て現行ラッパーたちとの絡みが増え始めてきたClever。同時にその独特なヴォーカルスタイルとキャラクターも完成されてきたように感じられる。

バトルMC出身のラップ巧者な白人、ロック層にもアピール出来る歌唱力を備えつつ、それでいてしっかりとコアなラッパー達の楽曲に参加する・・・これは現行シーンにおいて絶妙な立ち位置と言えるだろう。Post Maloneがあまりにメジャーな存在になってしまった今、HipHopファンが追うべきはこの男なのかも知れない。