著作権に違反しないSNSの使い方 【コラム】

著作権に違反しないSNSの使い方 【コラム】
 

技術の進歩により、それに伴う人々のニーズが目まぐるしく変化していく現代社会。そんな状況においては「法律が追い付かない」状態に陥るケースも多々あるだろうが、「著作権(著作権法)」もその中の一つ。音楽業界にとっては作者やアーティストの権利(=利益)を守るための重要な法律だが、インターネットやモバイル端末の普及により、違法アップロードや違法ダウンロードが誰でも行える上、ユーザーが意図せず著作権を侵害しているケースも起こっている。執筆時現在(2019年10月20日時点)、文化庁は著作権法の改正に向けたパブリックコメントを募集しており、時代に適したルールを社会全体で模索している状態にある。今回はこの著作権について、その中でも筆者が見た音楽ファンたちのSNSの現状に焦点を絞り、ユーザー/リスナー側の立場から画像や動画の正しい投稿の仕方を考えてみたい。

※本記事は「音楽ファンにとってのSNS」に焦点を絞った内容となっています。ブログなどSNS以外のサービス、イラスト・キャラクター・写真家が撮影した作品などは本文の解説に該当しない可能性があります。また違法性については最終的に裁判所が個別に判断しますので、本記事の内容はあくまで一般論とお考えください。
※著作権を侵害していると思われる例や、黙認されている現状なども解説していますが、決してそれらの行為を推奨している訳ではありません。

文化庁”「侵害コンテンツのダウンロード違法化等に関するパブリックコメント」の実施”公式ページ (実施期間2019年9月30日~2019年10月30日): http://www.bunka.go.jp/shinsei_boshu/public_comment/1421771.html

そもそも著作権とは?

著作者が著作物の権利を独占出来るルール

本題に入る前に、まずは“著作権とは何か?”という基本的な部分を簡単に整理しておきたい。著作権とは、「著作者が、著作物の複製/演奏/放送/展示/譲与などを行う権利を専有出来る」というもので、この権利は著作権法という法律によって保護されている。登録などは一切不要で、著作物の創作を始めた時、もしくは公表後から著作者の死後70年が経過するまで存続する権利だ。

「著作者」や「著作物」とは何のこと?

ここで出てくる”著作者”とは、

著作物を創作する者をいう。

引用元: https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=345AC0000000048#5 (著作権法第二条)

と定義されており、つまりその創作物・作品を作った“作者”のことだ。(但し著作権は譲渡や相続が出来るため、その場合は受けた者が権利を保持する。)

”著作物”とは、文芸・学術・美術・音楽の分野で思想や感情を表現したもの。具体的には

この法律にいう著作物を例示すると、おおむね次のとおりである 。
一 小説、脚本、論文、講演その他の言語の著作物
二 音楽の著作物
三 舞踊又は無言劇の著作物
四 絵画、版画、彫刻その他の美術の著作物
五 建築の著作物
六 地図又は学術的な性質を有する図面、図表、模型その他の図形の著作物
七 映画の著作物
八 写真の著作物九 プログラムの著作物

引用元: https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=345AC0000000048#5 (著作権法第十条)

とされている。SNS上の音楽ファンに関連深いものでは、「好きなアーティストの楽曲」「ミュージックビデオ」「写真」「歌詞」「情報サイトやブログ記事での創作性のある文章」などが著作物となる。

抑えておきたい2つのポイント

1つ目は、著作権法の中で定められている「著作隣接権」。これは、著作物を公にする際に重要な役割を担った”著作者以外の者”が持つ権利。これにより曲や歌詞を作った著作者以外の関係者、例えばそれを演奏する歌手やミュージシャン、レコードの製作者などもそれぞれ権利の専有が保護されている。

2つ目は、「外国の著作物も、日本国内では日本の著作権法によって権利が保護される」というルール。これは、ベルヌ条約や万国著作権条約といった、互いの国の著作物を保護し合う条約が世界各国で結ばれているため。例え洋楽のミュージックビデオや歌詞であっても、日本国内で利用される際には日本の著作権法が適用されるので、洋楽ファンは特に知っておくべきだ。(条約を結んでいない国は除く。)

自分のSNSに他人の著作物を投稿する方法

好きなアーティストのミュージックビデオや歌詞など、誰かの著作物をSNSに投稿したい場合、合法な手段はかなり限られる。ここからは「音楽ファンがSNS上に他人の著作物を投稿する場合」について、多いと思われる3つのパターンごとにその違法性や正しい投稿の仕方を考えてみたい。

※著作物を無断で合法的に投稿・掲載する方法として「引用」という方法がありますが、これには複数の条件を満たす必要があり、文字数や書式が限定されるSNSで行うのは実質不可能と思われます。そのため「引用」については除外した内容となっています。

「好きなアーティストの曲、ミュージックビデオ、インタビュー動画を無断で投稿する」場合

Youtubeなどで公式がアップしたページのURLを、自分のSNSに貼り付けて投稿する可能
SNSで公式による曲や動画が含まれる投稿を、共有機能を使って拡散可能
公式がアップした曲やミュージックビデオを自分の端末にダウンロードし、それをSNSに投稿不可

好きなアーティストの楽曲やミュージックビデオについては、そのアーティストが契約しているレコード会社やアーティスト自身が権利を有し、またインタビュー動画についてもそのインタビューを行っているメディア等が権利を有している場合がほとんどと思われる。無断使用が許可されていないこれらの動画を自分のSNSに投稿するには、Youtubeなどで公式によりアップロードされたものに限りURLを貼り付ける形で行うことが出来る。また公式のSNSアカウントが投稿したものを、リツイートやリポストなどの標準機能で共有することも問題は無い。

一方公式がアップロードした曲や動画でも、それを手持ちの端末にダウンロードし自分のSNSアカウントに投稿する方法は権利の侵害=違法アップロードとなる。例えばYoutubeなどから動画をダウンロード出来るアプリで、好きな曲のミュージックビデオを保存した場合。これを「自分の端末内で視聴するだけ」なら私的な利用であり違法にはならないが、自分のTwitterなどに投稿してしまうと違法になる。アーティストやレコード会社にとっては(見方を変えればYoutubeなどの動画サービス自体にとっても)そこでの再生回数は立派な収入源であり、このような違法な投稿の仕方は、応援したい筈のアーティストの収益を奪う行為に他ならない。と同時に、その投稿を見た他のユーザーにとってもフルで視聴するためには結局自分で再度検索しなければならず、不便な拡散方法と言える。「同じ曲が好きなユーザーと交流したい」「自分の投稿をアピールしたい」というのもSNSの楽しさではあるが、公式のリンクを貼れば済むものをわざわざ上記のような方法で投稿する必要があるのかは考えるべきかも知れない。

ちなみにYoutubeではアップロードされた楽曲の権利者を自動で判別するシステムが組み込まれている。違法にアップロードされた楽曲やミュージックビデオからも、本来の権利者に収益が渡るようにと取られた対策だ。こういった動きからも、権利者の収益が如何に”守られるべきもの・守るべきもの”であるかが分かるだろう。

「好きなアーティストの画像を無断で投稿・アイコンに使用する」場合

公式がSNSに投稿した画像を、SNS標準の共有機能を使って拡散可能
所属事務所の公式サイトなどでルールを確認し、許可されている範囲で投稿 可能
アーティストの画像を自分の端末に保存し、投稿やアイコンに使用原則不可(但し事務所によっては一部許可されているケースもある。要確認)

「公式SNS、公式サイト、ニュースサイトなどに投稿された好きなアーティストの画像を保存し、自分のSNSに投稿したりアイコンに使う」ことは基本的には違法と考えられる。自分自身で撮影したアーティストの写真では、著作権ではなく写っているアーティストの「肖像権」という別の権利の侵害となるため、これも違法と考えられる。合法的な手段としては、やはり公式による投稿をリツイートやリポストといった標準機能で共有するしかない。しかし、中にはアーティストや所属事務所の方針によって「厳密には違法ではある」としながらも限定的に利用が許可されているケースもあり、またその許可の範囲もまちまちなので、公式サイトを確認してみるのも手だ。

とは言え実際のところ、許可無く違法な形で投稿しているユーザーも多く、余程悪質であったり商用的に利用している場合などを除けば黙認されているような現状もある。画像であれば、再生や視聴そのものが直接収益になるものでもない。応援したいという好意的なファンの投稿であればむしろ宣伝効果も狙えるだろう。 権利者側にとっても複雑な状況と言えるのかも知れない。

「好きな曲の歌詞、他人のサイトやブログ記事など、文章を無断でSNSに投稿する」場合

公式による歌詞が掲載されたページのリンクや、記事のリンクを貼り付ける 可能
歌詞や記事の全文または一部を、自分のSNSにコピーして投稿 不可
歌詞や記事が掲載されたページをスクショして自分のSNSに投稿 不可
歌詞や記事の一部をメモ機能などにコピーし、それをスクショして自分のSNSに投稿 不可

最後は他人が権利を有する“文字・文章”を無断で投稿する場合。これについては、「公式が投稿したページのリンクを貼り付ける」「権利者の許可を得て投稿する」以外に合法な手段は無いと言える。「引用」という形式なら投稿・掲載が可能だが、前述の通りSNS上では必要な条件を満たすのは実質不可能だろう。

和訳した歌詞や記事を投稿する場合

外国語の歌詞やニュース記事を翻訳し投稿する場合も、翻訳前の文章の掲載・不掲載は関係なく違法と考えられる。著作権権法では

著作者は、その著作物を翻訳し、編曲し、若しくは変形し、又は脚色し、映画化し、その他翻案する権利を専有する。

引用元: https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=345AC0000000048   (著作権法第二十七条)

と、「翻訳出来る権利」も著作者が独占出来ると定められている。これに加え、外国の著作物は条約により日本国内の著作権法が適用されることから、違法と考えられる。(前述の通り条約を結んでいない国は例外。)

「誰にとっての利益か」を考える

今回は、音楽ファンであれば知っておきたいSNSと著作権について基本的な情報をまとめた。法律の条文や「違法」「合法」などの堅苦しい言葉を見るとそれだけで敬遠する方もいるかも知れないが、著作権とは簡潔に言えば「好きなアーティストやメディアに損をさせない」ためのルール。著作権法違反が親告罪であることや、違法とは言え著作者により個別に許可されているケースがあることからも、突き詰めればアーティスト側が損をするのかどうか、という点が重要になってくる。

HipHopシーンにおいては以前からミックステープという、アーティスト側の許可無くDJが勝手に選曲・録音したテープやCDを販売する文化が存在する。これもアーティスト側にとってはレコードの宣伝効果が大きく、デメリット以上にメリットがあることから根付いたものと言える。

「アーティスト側が損をしないかどうか」 。ファンである立場なら、好きなアーティストの画像や動画を投稿する前にこの点をよく考える必要がある。「バズりたい」「仲間を増やしたい」というような自分の利益だけを優先した投稿であれば控えるべきだろう。応援したいはずのアーティストに損をさせる投稿をしていては、ファンとは言えない。そもそも著作権の侵害だと知らずにそういった投稿をしているユーザーもいるだろうが、これを機にアーティスト側が守られるべき権利や本当のファンたちの気持ちを考えてみてはいかがだろうか?



※Simple 10では一部他者が権利を有する著作物を掲載していますが、「引用」など適切と判断した方法でのみ行っています。万が一問題がありましたら、お手数ですが著作者様ご本人により「お問い合わせ」からご連絡をお願いいたします。