HipHopのビートメイク、まず揃えるべき機材は何か?
HipHopのビート作り、所謂トラックメイキングには何が必要なのか?揃えるべき機材から、失敗しない選び方のポイントまで詳しく解説していきます。
現在主流の制作スタイルに必要な機材は?
現在はパソコンにDAW(デジタル・オーディオ・ワークステーション)と呼ばれる音楽制作ソフトをインストールし、そのソフトを使用して制作するスタイル=DTM(デスク・トップ・ミュージック)が主流と言えます。DAWソフトの種類や、求めるクオリティによっても必要となる機材は異ってきますが、下記リストのものを揃えることが 一般的です。
- パソコン
- DAWソフト
- オーディオインターフェイス
- モニタースピーカー
- 音源(ソフト音源/ハード音源)
- MIDIコントローラー
- 各種エフェクト
- ケーブル類
- 電源タップ
それでは一つずつ詳しく解説していきます。
1. パソコン
前述の通り、音楽制作ソフト=DAWソフトを使用するために必要です。但しパソコンであれば何でも良いという訳ではなく、”使用するDAWソフトやオーディオインターフェイスが推奨している性能を満たしているパソコン”でなければなりません。OSのバージョンや処理能力、空き容量などが推奨スペックに満たないと、正常に動作しないケースもあるので、この点は必ず確認しておきましょう。この”推奨スペック”はDAWソフトによって異なりますので、まずはどのソフトを使用するのか目星を付けてからパソコンを選ぶのが良いかも知れません。代表的なDAWソフトが推奨しているスペックの例を挙げると、
Abelton社 Live 10 (記事執筆時の最新バージョン)
OS | Windows・・・Windosw7 (SP1) / 8(64bit)/10(64bit) Mac・・・ OS X 10.11.6以降 |
CPU | Windows・・・ 64ビットIntel®、および、AMDマルチコアプロセッサー。 Intel® Core™ i5プロセッサー以上推奨。 Mac・・・ Intel® Core™2 Duo Processor(Intel® Core™i5 プロセッサー以上を推奨) |
RAM(メモリ) | 4 GB RAM(8 GB以上を推奨) |
ディスク容量 | 基本インストールに約3GB(8GB推奨)、 加可能なサウンドコンテンツのインストール に最大76GB必要 |
参照:
https://www.ableton.com/ja/live/compare-editions/
Steinbeg社 Cubase Pro10(記事執筆時での現行最上位モデル)
OS | Windosw・・・ Windows 7 / 8.1 / 10 (すべて 64ビット版のみ) Mac・・・macOS Sierra (10.12) / High Sierra (10.13) / Mojave (10.14) |
CPU | 64ビット Intel / AMD マルチコアプロセッサー (Intel i5 以上推奨) |
RAM(メモリ) | 8GB 以上 (最低 4 GB 以上) |
ディスク容量 | 30 GB 以上 |
参照 : https://japan.steinberg.net/jp/support/system/cubase.html
となっています。上記の項目以外にも動作に必要な条件がありますので、必ず事前に公式サイトなどで確認をしておきましょう。
推奨スペックよりも余裕があるものを選ぶと尚良し
主要なDAWソフトの推奨環境を満たすパソコンは、おおよそ7万~10万円位の価格で購入出来ます。しかしその後ソフトがバージョンアップされたり、プラグイン(詳細は後述)の導入・使用、更に音楽制作以外にも使用することがあれば満足な動作が得られなくなることも考えられますので、推奨されているスペックはあくまで最低ラインと考え、多少余裕を持ったスペックのパソコンを購入しておくのがおすすめです。
2. DAWソフト
パソコンにインストールして使用する音楽制作用のソフトです。 より具体的には、「MIDI」という楽譜代わりとなるデータによって制作が出来、かつオーディオデータ(実音データ)のレコーディングや編集が出来るソフト、ということになります。 代表的なものでは、「Cubase(Steinberg社)」「Logic Pro(Apple社)※Mac専用」「Pro Tools(Avid社)」「Ableton Live(Ableton社)」「Studio One(Presonus社)」などがあり、様々なDAWソフトが各社から販売されています。
どのDAWソフトを選ぶべきか?
最初はどのDAWソフトを購入するべきか迷ってしまいますが、上記のような主要なソフトであれば”どれでも良い”と言えます。価格や性能など各ソフトごとに特徴はあるものの、どれもプロが使用するような本格的なソフトですので、基本的な部分には大きな差が無いためです。所有する(または購入予定の)パソコンで使用出来るかどうか、予算、好きなアーティストが使用しているから、などを理由に決めて良いかと思います。筆者の個人的なおすすめとしては、長年の実績がありユーザーも多い上、プラグイン(MIDIで入力した楽譜データを演奏する仮想楽器・音色/オーディオを加工するエフェクト)を豊富に備えたCubaseを挙げておきます。
初心者であれば、オーディオインターフェイスに同梱されているソフトで慣れていくのがおすすめ
DAWソフトは、無料で使える「デモ版」「低価格の入門者向け」「本格的なプロ仕様版」など、同じソフトであっても異なるバージョンが存在するものが多いです。価格が安い下位バージョン程機能に制限が設けられていて、上位になるほどその制限が解除されていく、という仕組みとなっているため、自身のレベルや目的に合わせて選びましょう。特に初心者の方は、機能が多すぎると使いこなせずかえって混乱してしまうケースも考えられますので、まずは下位バージョンで様子を見る、というのも良いかと思います。オーディオインターフェイス(詳細は後述)の中にはDAWソフトの無料版が同梱されているものがありますので、そこから始めてみるのも無駄が無くおすすめです。
フリーソフトという選択肢も
またDAWソフトには完全に無料で使用出来るフリーソフトも存在し、中でも「Reaper(cockos社)」が有名です。こちらは主要DAWの無料版にあるような機能制限は基本的には無く、楽曲制作に必要な機能は一通り搭載されているので、「とにかくお金を掛けずに制作環境を整えたい」という方には良いかと思います。有志による日本語パッチが存在する程日本人ユーザーが多く、使い方などを解説しているサイトも多く見られますので、その点も安心です。但しMIDIの使用に関しては操作性が悪いため、「Domino」というMIDI専用のフリーソフトと連携させ制作している方が多いようです。
Reaper公式サイト : https://www.reaper.fm/
Domino 公式サイト : http://takabosoft.com/domino
3. オーディオインターフェイス
「パソコンへ、シンセサイザーやターンテーブル、マイクなどの音を入力する」「パソコンで再生した音をスピーカーへ出力する」ために必要な機材です。パソコン本体にもマイクやイヤホン用の入出力ジャックが元から付いていますが、楽曲制作向けの性能を備えていないことから、高音質で時差が少なく入出力が行える「オーディオインターフェイス」という機材を使用するのが通常です。現在はUSBケーブルでパソコンと接続するタイプが主流です。
どのオーディオインターフェイスを揃えるべきか?
オーディオインターフェイスは、安いものでは家電量販店などでも数千円位で販売されています。しかし、これらは動画や音楽を楽しみたい家庭向けの商品と言え、楽曲制作には適していないことが多いです。最低でも1万台後半~2万円台位のDAW/DTM向けのもので、前述のようにDAWソフトのデモ版が同梱されているのものを選びましょう。更に選び方のポイントが2つ、1つ目はシンセサイザー、ターンテーブル、その他楽器など使用する機材が複数ある場合は、入力チャンネルが多いもの=ミキサー型(オーディオインターフェイス内臓ミキサー) を選ぶこと。2つ目は、ラップなどヴォーカルの録音をする予定がありその際コンデンサーマイクを使用する場合は、コンデンサーマイク用の電源「ファンタム電源」を搭載したものを選ぶこと。予めご自身の制作環境を想定し、用途に適したものを選ぶようにしましょう。
4. モニタースピーカー
パソコンで再生した音声/外付けの楽器類の音声を、オーディオインターフェイスを経由し実際に”鳴らす”ためには、スピーカーが必要になります。「スタジオモニター」と呼ばれる楽曲制作向けのもので、その中でもパワードスピーカーと呼ばれるアンプ内蔵型のものを揃えましょう。高さ30cm前後の大きさで左右2個セットのもの、価格は1万円台後半~2万円台位のもので十分でしょう。
但し住宅環境によってはより小型のもの、或いはヘッドフォン(あまりおすすめしませんが)で代用します。ヘッドフォンについては、家電量販店で売られているような家庭向けのものや、必要以上に低音が強調されるDJ向けのものは避け、 スタジオモニター用のものを選びましょう。中でもSONYのMDR-CD900STは長年プロの現場でも愛用されており、定番のヘッドフォンと言えます。
また、これらのスピーカーやヘッドフォンは全てオーディオインターフェイスに接続しますので、ケーブルの端子が接続先に対応しているかも事前に確認しておきましょう。
5. 音源(ソフト音源/ハード音源)
バンドなどであれば、ドラム、ギター、ベース・・・と実際の楽器を持ち寄って曲作り/演奏が行えますが、パソコン主体の制作スタイルでは楽器の代わりに「シンセ(シンセサイザー)」、または「音源」と呼ばれるものを使用します。例えば、ドラムの音だけを集めたドラム音源、様々なベースの音を集めたベース音源、あらゆる楽器の音を集めたマルチ音源などがあり、それぞれ実機(ハードシンセ/ハード音源)と、パソコンにインストールしDAWソフト上で使用するプラグイン(ソフトシンセ/ソフト音源)があります。ハード、ソフト、どちらも日々多くのメーカーからリリースされていますので、必要なものを集めていくことになります。またソフト音源には無料のものも多く存在しますので、これらを発見・集めていくのも楽しみの一つです。
音源の揃え方、3つのおすすめパターン
これだけ膨大にある音源、どう揃えていったら良いか分からない初心者の方には3つのおすすめパターンを紹介します。
パターン1. DAW付属のソフト音源をメインに。
前述の主要なDAWソフトの中には、即戦力となり得るソフト音源が元から搭載されているものがあります。「自分で集めていくのはちょっと難しそうだ」という方はこれが最も手軽な方法かと思います。DAW購入時に音源が充実しているものやバージョンを選びましょう。
パターン2. 各社のソフト音源を集め、それらを中心に。
こちらもソフト音源を中心に制作していくパターンです。「たくさんシンセを搭載したDAWソフトや、ハード音源は高くて買えない」という方は無料音源を集めていくだけでもそれなりに環境は整います。欲を言えばドラムやベースなど、ビートの骨組みとなる音源だけでもそれなりのものを揃えられるとクオリティに差が出ますので、「DAWソフトを安いものにして、その分の資金を音源に回す」というのも手です。
パターン3. 実機(オールインワンシンセ)を1台、その他をソフト音源で。
実機は高額な上に置き場所も必要になりますが、オールインワンシンセと呼ばれるものが1台あると便利です。様々な音源が搭載されている上、後述するMIDIコントローラーとしても使用出来るため、「あれこれ揃えていくのは面倒だ」という方には特におすすめです。但し、各楽器専用のソフト音源にはサウンドのクオリティが劣るケースもあるため、必要に応じソフト音源も導入します。
また、こちらも後述しますが上記のような音源ではなく、「サンプリング」や「サンプルパック」を用いることでも制作は行えます。
6. MIDIコントローラー
主に「鍵盤型」「パッド型」の2種類があり、これらをUSBケーブルでパソコンと接続するのが主流です。(USB以外の接続方法では、別途「MIDIインターフェイス」という機材か、MIDIインターフェイスを搭載したオーディオインターフェイスが必要になります。)この鍵盤やパッドを弾くことで、前述の音源を実際に演奏することが出来、その音階や強弱などの楽譜的なデータをリアルタイムで記録することが出来ます。MIDIコントローラーを使わずマウスでデータを入力したり、パソコンのキーボードを鍵盤代わりに使用する方法もありますが、演奏のニュアンスや効率を考えるとMIDIコントローラーを使用するのがおすすめです。まず最低限揃えるべきは鍵盤型、これだけでも十分ですが、余裕があればドラムの打ち込みはパッド型で行うのが良いでしょう(鍵盤・パット両方を搭載しているものもあります。)。価格はおおよそ4,000円台~1万円台位から購入出来ますが、基本的にDAWソフトやソフト音源のような利用者情報を登録する必要がない機材ですので、ネットオークションなどでも手に入れ易いかと思います。また、MIDIデータの送受信が可能な実機のオールインワンシンセを導入する場合は、別途購入する必要はありません。
7. 各種エフェクト
MIDIで入力した楽譜データをシンセ音源で鳴らし、各パートごと個別に実音として記録(書き出し)すると、その後は「ミックス」という作業工程に入ります。実音データとなった各パートの音量や定位を調整したり、様々な効果を加えて音に味付けをしていく作業です。この際音に変化を加えるものが「エフェクト」と呼ばれるもので、こちらも各種実機/プラグインと存在しますが、まずはパソコンにインストールするプラグインエフェクトで十分でしょう。主要なDAWソフトであれば必要なエフェクト類は一通り元から搭載されていますし、無料のものも多数存在しますので、初心者であれば購入する場面はあまりないかも知れません。最低限揃えておきたいのは、
・コンプレッサー(音を圧縮し締りを良くする/音圧を稼ぐ)
・EQ(イコライザー。余分な帯域をカットしたり、美味しい帯域を前に出す)
・リバーブ(残響音を足し、奥行きを持たせる)
・ディレイ(山びこのように音を繰り返し、空間を演出)
・スペクトラムアナライザー(どの帯域がどれ位鳴っているのかを視覚的に確認出来る)
の5つ。正しく使いこなせるようになるまでには時間がかかるかと思いますので、様々なエフェクトに手を出すよりもまずは基本となるこれらをじっくり使い倒してみるのが良いでしょう。また、同じコンプレッサーであっても、メーカーやモデルによって効きや癖が異なりますので、DAWソフト付属のものや無料のもので物足りなく感じる場合は、別途購入を検討してみてください。
8. ケーブル類
機材同士を接続するために必要です。機材によって端子が異なったり、配置する位置によっては長さも考えなければならないため、しっかりと確認をして揃えましょう。ここまで紹介してきた制作環境では下記のケーブルが最低限必要になります。
・パソコンとUSB対応オーディオインターフェイスを繋ぐUSBケーブル1本(インターフェイスに同梱されている場合もあります。)
・オーディオインターフェイスとMIDIコントローラーを繋ぐUSBケーブル1本
・オーディオインターフェイスとモニタースピーカーを繋ぐケーブル左右2本(端子は「TRSフォン(フォン)」「XLR」「RCAピン」など。 )
・ハード音源を使用する場合は、オーディオインターフェイスと接続するためのケーブル左右2本( 「XLR」「RCAピン」のどちらかの端子になるかと思います。 )
スピーカーやハード音源に使うケーブルは、端子や長さにもよりますが 1000円~2000円を少し出る位の価格で左右1セット購入出来ます。
9. 電源タップ
機材ばかりに気を取られて意外と忘れてしまうのが、電源タップです。パソコン、オーディオインターフェイス、モニタースピーカーと最低でも3口、更にハード音源を使えばその分のコンセントが必要になります。スタジオ用の高品質なものも存在しますが、家庭での制作環境でしたら家電量販店で売られている数百円のもので良いでしょう。
サンプリング主体でビートを作りたい人向けの機材
ここまでは「MIDI」という、楽譜代わりになるデータを打ち込んで制作する場合に必要な機材を解説してきました。これが現在比較的主流のスタイルですが、HipHopと言えばやはり”サンプリング”。既存の楽曲の一部を使ってビートを組み立てるこの方法には、更に
- サンプラー
- サンプリング素材
が必要になってきます。
1. サンプラー
サンプラーを使用しサンプリング中心に楽曲制作を行う場合、大きく2つのパターンに分けられます。それぞれ機材が異なりますので、1つずつ見ていきます。
パターン1. パソコンを使用せずに、サンプラー単体で制作する。
AKAIのMPCシリーズなどは、パソコンに接続せずサンプラー単体で制作が行えます。(MPCでも一部のモデルはパソコンへの接続が必要なものがあります。)この場合は、パソコンやオーディオインターフェイス、DAWソフトも必要なく、スピーカーをサンプラーに繋ぐだけで完結します。
パターン2. サンプリング自体はパソコンで行い、コントローラーで演奏・打ち込みをする。
前述の「ハード音源/ソフト音源」のように、サンプラーにも”ソフトサンプラー”が存在します。DAW上でプラグインとして起動させて素材(元ネタ)を読み込み、MIDIコントローラーで演奏します。このソフトサンプラーは、DAWソフトに元から付属している場合もありますし、「Shortcircuit」「TX16Wx」といった無料で使えるものもあります。また、ソフトサンプラー/ソフト音源/シーケンサー/オーディオインターフェイス/専用コントローラーがセットになった「Maschine(Native Instruments社」)も人気です。
TX16Wx公式サイト: https://www.tx16wx.com/
※Shortcircuitは公式サイトが確認出来ず、ダウンロード出来るサイトも公式か非公式か不明なため、リンクは割愛。
2. サンプリング素材
当然ながら、サンプリングするための素材=元ネタが必要となります。HipHopにおいてはレコードから取り込むのが王道ですが、再生するにはレコードプレイヤーが必要になる上、ビートを販売する際には権利関係の問題が発生しますので、著作権フリーの音源集”サンプルパック”を購入するのも手です。
予算や目的に合わせて揃えていこう
今回は、HipHopのビート作りに必要な機材と選び方のポイントを解説してきました。現在主流の一般的な制作スタイルを想定しましたが、必ずしも「全て揃えないと出来ない」という訳ではありません。本格的に活動していきたい人もいれば、趣味・遊びとして簡易的に始めてみたい方もいるでしょうから、予算や自分がやりたいことに合わせて必要なものを揃えてみてください。
関連記事: 初めてのDTM、機材はどこで買うべきか?
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