Skye Verbs ~台湾で人気を獲得したUS産R&Bシンガーを聴く~

Skye Verbs ~台湾で人気を獲得したUS産R&Bシンガーを聴く~
 

皆さんは、日本・アメリカ以外の音楽チャートをチェックする機会はあるだろうか?我々がパッと思い付くような主要な外国であれば、現地のアーティストを中心にそこへアメリカの人気アーティストが加わったチャートになっている場合が多いように思う。

現地のアーティストに関しては各国違いがあるのは当然として、筆者が面白いと感じるのは“アメリカ以外の国で人気のアメリカのアーティスト(楽曲)の違い”だ。ヒットするまでの時差はあるにせよ、多くがアメリカでヒットしたものが各国のチャートにもランクインしてくる形だが、本国以上に人気を得るケースもしばしば見掛ける。日本にも昔から“ビッグインジャパン”と呼ばれる現象があったが、それに近い現象は他の国でも起こっているようだ。

Skye Verbsという若手R&Bシンガーも、そういったケースに該当する。2017年にリリースされたデビューEP“Soul Food Eye Candy”は、本国アメリカのiTunes R&Bチャートでは最高73位だったにも関わらず、台湾では同チャートで1位を獲得、更に全ジャンルを合わせた総合チャートでは16位を獲得している。筆者の調査では、どのような経緯で台湾での人気に火がついたのか直接的なきっかけは分からなかったが(タイアップなどがあった可能性も考えられる)、彼女が台湾のR&Bファンのハートを掴んだことは間違いない。
今回はそんな彼女について紹介、その魅力に迫っていきたい。


コネチカット州スタンフォード出身のSkye Verbs。自宅にピアノがあったことから音楽を始め、早くから演奏や作曲を習得していたようだ。更に合唱団への参加など音楽に打ち込む子供時代を過ごした後、大学では音楽業界のビジネスについて学んでおり、そういった真面目さというか品行方正さは楽曲にも現れている。恐らく彼女自身の演奏であろうイントロから始まり、正統派なHipHopビートの上で歌う“Tell Me”からもその辺りが感じられ、このどこか素朴で品があるサウンドが彼女の最大の魅力と言える。“ストリートではなく音楽教室で育ったMary J. Bligeのよう”とでも言えば分かりやすいか。



また、彼女は同じくピアノが重要な要素であるAlicia KeysやLaura IziborといったR&Bシンガーともタイプは異なり、曲によってはラップもする。HipHopへの思いも相当強いようだが、彼女のラップは音階が明確に存在するような歌い手特有のもので、HipHop本来のそれとは一味違ったフロウを持っている。”Home”で、ラップパートから歌パートへ移る瞬間の自然な流れを聴くと、ラップを自身の歌唱の一部に取り込んでしまったような印象を受け、不思議な感覚を味わわせてくれる。更にTrapのビートで歌うこともあり、その辺りも先に挙げたシンガー達とは異なる点だろう。


そうかと思えば、シンセが絡み西海岸的なスムースさを備えた“Look At You”(筆者はこの曲が最もツボだ)や、「週刊新譜る10(2019/7/31~8/7)」に選出した最新曲“Hit Right”など幅広い楽曲を聴かせ、この守備範囲の広さからも彼女の音楽的な素養の高さを感じられる。そしてどんなタイプの楽曲であれ、どこか品の良さが漂い、HipHop/R&B特有のダーティさを抑えたサウンドになっているのが彼女らしい。
これはアメリカのメインストリームのトップに食い込むためには物足りないとも言えるが、仮にそちらに標準を合わせたサウンドになっていたら台湾でのヒットは無かったはずだ。

本記事執筆時(2019年9月23日)のiTunes台湾チャートを見てみると、チャートインしている洋楽勢は上から“Maroon5 – Memories”、“Shawn Mendes & Camila Cabello – Señorita”、“Billie Eilish – Bad Guy”となっており、素朴で控えめ・かつ品のあるサウンドが好まれている。これはチャートインしている中国語圏のアーティストの楽曲にも共通しており、台湾の事情には全く詳しくない筆者だが、少なくともチャート上ではそういったサウンドが好まれる傾向にあると推測出来る。つまりSkye Verbsの場合も、この”ダーティなサウンドを好まない台湾のニーズ”に彼女の作風が上手くハマった(台湾人ウケするサウンドだった)というのが、きっかけは不明だが本国以上の人気を獲得した理由と考えられる。

チャート参照: https://www.apple.com/tw/itunes/charts/songs/

「人と同じ道を行けば、主流にはなれるがライバルも多い。
オリジナリティを追求していけば、思わぬ需要に出会えるかも知れない。」

台湾での成功によって、そんなことを気付かせてくれた彼女。現在は「Aces Nation」というインディーレーベルに所属しており、僅かだがメディアへの露出も見られる。今後どういった動きを見せるのか楽しみだ。