「London On Da Track, G-Eazy – Throw Fits」他、週刊新譜る10(2019/5/15~22)

「London On Da Track, G-Eazy – Throw Fits」他、週刊新譜る10(2019/5/15~22)
 

週刊新譜る10 [2019年5月15日~22日分]

直近7日間でリリースされたアメリカのHipHop/R&Bの新譜や新作ミュージックビデオの中から、”これだけは抑えておきたい10曲”を厳選して紹介している当サイトのメインコーナー。今回は2019年5月15日から22日の間にリリースされたものから選出。

London On Da Track & G-Eazy – Throw Fits feat. City Girls, Juvenile


ビデオ公開日2019年5月15日
収録タイトル
元ネタMagnolia Shorty – Monkey Pt.2 [2011年]

Georgia州Atlantaの売れっ子プロデューサーLondon On Da Trackと、California州OaklandのラッパーG-Eazyがタッグを組んだ新作ミュージックビデオ。客演にはLouisiana州New OrleansのベテランJuvenileに加え、Florida州Miamiの若手デュオCity GirlsからYung Miamiと、意外な顔ぶれが揃う。元ネタで使われているMagnolia Shortyは、その名の通りJuvenileと同郷で、かつてCash Moneyに所属していた女性ラッパー。2010年に凶弾に倒れたShortyだが、現地バウンスミュージック界の女帝であった彼女の意思をシーンに蘇らせるかのような曲。
以前からEDM及びTikTok界隈で「バウンス」と呼ばれるものが流行しているようだが、Simple 10読者の皆様のお気持ちを筆者がはっきりと代弁しておきたい。EDMが生まれるとうの昔から「バウンス」とは南部産HipHopの一ジャンルを指す呼び名であり(トラップもだ)、混同するような名称はやめるべきだ。



Chris Brown – Wobble Up feat. Nicki Minaj, G-Eazy


ビデオ公開日2019年5月20日
収録タイトルIndigo [2019年6月21日リリース予定]
元ネタ”Magnolia Shorty – Monkey on Tha Dick [1996年]”

単なる偶然なのか、Magnolia ShortyをサンプリングしG-Eazyが参加した曲を今週はもう一つ。Virginia州Tappahannock出身のシンガー、Chris Brownの新作ミュージックビデオ。ビートはRihannaから50centまで手掛けるJ.R. Rotemがプロデュースし、客演も含めさすがのメジャー仕様。ビートの展開や、バウンス感の強い流れから主役のスムースな歌パートに切り替わる構成など、聴きどころも多い。


収録タイトルリリース日参照:
http://thesource.com/2019/05/07/chris-brown-indigo-release-date/

DJ Premier – Headlines feat. Westside Gunn, Conway & Benny


ビデオ公開日2019年5月16日
収録タイトル
元ネタ

New YorkはBrooklynを拠点とし、故Guruと結成されたデュオGang StarrのDJとしても知られるベテラン、DJ Premierの新作ミュージックビデオ。 ・・なんて説明も不要な程、ハードなドラムスにソウルフルな上ネタと、聴けばそれと分かる彼らしいサウンドがたまらない。更に、すっかり”コアなHipHopがさかんな地域”というイメージが定着しつつあるBuffaloから、その流れを生んだ張本人たちであるWestside Gunn、Conway、Bennyという実力派MCズが参戦。HipHopファン、特に東海岸好きであれば思わず唸ってしまう程正当派な一曲。

A$AP Ferg – Pups feat. A$AP Rocky


ビデオ公開日2019年5月16日
収録タイトル
元ネタ”DMX – Get at Me Dog
feat. Sheek Louch [1998年]”(B.T. Express – Everything Good to You (Ain’t Always Good for You)[1974年])

New YorkはHarlemのラッパー、A$AP Fergの新作ミュージックビデオ。Manhattanを拠点に活動するプロデューサーFrankie Pによる、Xの懐かしの曲をサンプリングしたビートが印象的。両者共にキレキレのフロウを聴かせ、例のフレーズや犬の鳴き声なども飛び出す。元ネタ曲以上にガヤガヤしたサウンドが痛快だ。

E.J. Carter & Lil’ Flip – Propane Remix


ビデオ公開日2019年5月17日
収録タイトルH Town to Pi Town [2019年5月3日リリース]
元ネタ

Missouri州St. LouisのE.J. Carterと、Texas州HoustonのLil’ Flipによる新作ミュージックビデオ。2000年代初頭にヒットを飛ばした後、地元でのローカルな活動以外はあまり目立った動きが無かったLil’ Flip。そんな彼が久々に全国区的な露出を果たしたことで迷わず選出した。本曲は、タイトル通り両者のコラボアルバム「H Town to Pi Town 」に収録されているが、Trapというよりも”ダーティサウス”と呼びたくなるようなこのサウンドは、Flip側主導ではないかと推測。現行Trap勢は日に日に洗練されてきている印象もあるだけに、本曲のような泥臭い南部感は改めて体感しておくべきだ。

Lil Nas X – Old Town Road feat. Billy Ray Cyrus


ビデオ公開日2019年5月17日
収録タイトル7 [2019年6月リリース予定]
元ネタ”Nine Inch Nails – 34 Ghosts IV [2008年]”

Georgia州Atlantaの若手ラッパー、Lil Nas Xの新作ミュージックビデオ。カントリーミュージック界も巻き込み、既に全米シングルチャート「Billboard Hot 100」を始め、カナダ、オーストラリア、UK他ヨーロッパ圏でも1位を獲得した話題の曲。そのため日本でも非HipHop層とも言える雑食洋楽ファンの間でも人気のようで、当サイトで扱うのは気が引けたが、一応Simple 10流に触れておこう。

19歳のオランダ人プロデューサーYoungKioによる、インダストリアル・ロックバンドNine Inch Nailsの”34 Ghosts IV”という曲をサンプリングしたこのビートが、”カントリー”という方向性をもたらしたか。そこへ、Trap全盛期以降の世代らしい主役のダラりとした語り口が加わり、更に大物カントリーシンガーBilly Ray Cyrus(あのマイリー・サイラスのお父さんだ)が客演・・・ともはや頭が混乱してきそうな程の問題作。一つ前に書いた”泥臭い南部感”を予想外の方向へ突き抜け、大袈裟に言えば米国音楽史上における”大事件”ともなりかねない曲だろう。

全米チャート参照: https://www.billboard.com/charts/hot-100/2019-05-18

Young Dolph – Crashin’ Out


ビデオ公開日2019年5月16日
収録タイトル
元ネタ

Tennessee州Memphisのラッパー、Young Dolphの新作ミュージックビデオ。切なげなTrapビートに合わせ、ヤングバックを伏せ目がちにしたような深みのある声で繰り出されるラップは、控えめながら芯の強さを感じられる。ビデオの通りでもあるが、真夜中の闇に包まれるようなダークなサウンドに痺れる。

Yuna – Blank Marquee feat. G-Eazy

ビデオ公開日2019年5月16日
収録タイトルRouge [2019年7月12日リリース予定]
元ネタ

マレーシア出身のシンガー、Yunaの新作ミュージックビデオ。本曲は、2019年7月にリリースされるアルバム「Rouge」から2曲目の先行シングルで、本記事3度目の登場となるG-Eazyが客演に招かれている。ビートを手掛けたのは”Kendrick Lama – Bitch, Don’t Kill My Vibe”のソングライティングにも携わっているRobin Hannibal。都会的でどこか懐かしいディスコサウンドに、透明感のある主役の歌声が映える。

収録タイトルリリースび参照:
https://music.apple.com/us/album/rouge/1462978892

Megan Thee Stallion – Realer 


ビデオ公開日2019年5月21日
収録タイトルFever [2019年5月17日リリース]
元ネタ

Texas州Houstonのラッパー、Megan Thee Stallionの新作ミュージックビデオ。DallasのプロデューサーLilJuMadeDaBeatがビートを手掛け、ハードなTrapながらこの地らしいユルさも感じられる。若手とは思えぬ安定感あるフロウも素晴らしく、今後更なる飛躍を予感させる。

Pacman Da Gunman – Loyalty


ビデオ公開日2019年5月17日
収録タイトルNo Guts No Glory [2019年5月31日リリース予定]
元ネタ

California州Los AngelesはCrenshawのラッパー、Pacman Da Gunmanの新作ミュージックビデオ。3月に凶弾に倒れたNipsey Hussleへの追悼曲やコメントは未だに見られるが、彼が遺したレーベル「All Money In」のメンバーによる曲となれば、その重みは別次元だろう。G-Funk黄金期らしさが感じられるビートも印象的だが、図太さと器用さが絶妙に入り混じったラップは味わい深い。Nipseyの跡を継ぐ者はしっかりと存在しているようだ。

関連記事: 【追悼コラム】Nipsey Hussleが残した功績に思いを馳せる

週刊新譜る10 [2019年5月15日~22日分] まとめ

今週は、G-Eazyの客演曲を多めに選出する形となったが、中でもMagnolia Shortyをサンプリングした”London On Da Track & G-Eazy – Throw”と”Chris Brown – Wobble Up”には注目しておきたい。Trapをより強力に、よりキャッチーに突き詰めていけば、行き着く先は確かにニューオリンズ的な”バウンス”というのは納得で、Trapをアップデートしたサウンドとして今後この手の楽曲が増える可能性もありそうだ。
また、これ以上無い程に東海岸らしいサウンドを聴かせてくれたDJ Premier、筆者としては久々のLil’ FLip、Nipsey亡き後を継ぐPacman Da Gunmanと、各地域ごとに良曲も多く、偏り無く楽しめる週だった。

皆さんも気になった曲はあっただろうか?是非新譜のチェックに活用していただきたい。