~シーンの大きな変化を感じた1年を振り返る~ Playlist:「The Best of 2018」

~シーンの大きな変化を感じた1年を振り返る~ Playlist:「The Best of 2018」
 

Simple10が選んだ2018年HipHopの総まとめ!「The Best of 2018」

2018年にリリースされた無料で入手可能な楽曲の中から、シーンの1年を振り返るプレイリストを作成。流し聴きするも良し、気に入った曲のみチェックするも良し、ご自身の端末にダウンロードしていくのも良し。お好みでご活用ください。(すぐ下のYoutube動画がすでに25曲流れるプレイリストになっています。)




今回のプレイリストの選曲基準・ルール

①2018年中にリリースされた、公式による無料ダウンロードが可能な曲/またはMixtapeに収録されている曲で、かつミュージックビデオ/オーディオのみのビデオが存在する曲。(ビデオの公開年は異なる場合もあり。)
②2018年に活躍が目立ったアーティストや、同年のシーンを象徴するサウンドを可能な限り選出。
③再生数やDL数ではなく、管理人の好みで選出。
④プレイリストとしての流れも意識した曲順で作成。

※各リンク、元サイト側による削除等あった場合はご容赦ください。

「The Best of 2018」を一曲ずつ紹介

それでは選出曲を1曲ずつ見ていこう。

Salma Slims – Money Bags feat. 24HRS & MadeinTYO


ビデオ公開日2018年8月10日
収録タイトルRGB 2 ( Presented By Ethika )
元ネタ

Georgia州Atlantaの若手女性ラッパー、Salma Slimsのこの曲からスタート。このままメジャーでも通用しそうなキャッチーでスムースなサウンドが気持良い。同郷のラッパー24HRSとMadeinTYOを招いたAtlanta尽くしの曲ではあるが、3者とも2014年頃に起こったTrapブームの開始以降に頭角を現した存在。昨年は、彼らのような新世代のアーティストもシーンを大いに盛り上げてくれた。



Fat Trel – Sick & Tired


ビデオ公開日2017年12月6日
収録タイトル Finally Free
元ネタ

Washington D.C.のラッパー、Fat Trel。前曲よりもしっとりとしたこの曲を続けて、序盤は聴き易い流れに。決して器用とは言えないフロウは、綺麗なサウンドのビート上では反って説得力が増していて、ため息が出る程の哀愁に包まれる。



YBS Skola – Shinner


ビデオ公開日2018年11月18日
収録タイトルLife of a Shinner
元ネタ

Maryland州BaltimoreのラッパーYBS Skolaを、昨年の「Playlist: The Best of 2017」に続いて今年も選出。2017年の時点ではまだ同地のローカルラッパーという立ち位置だったが、昨年は全国区的に知名度のあるラッパーの客演に招かれるなど、着々と活躍の場を広げている印象があった。Skolaらしいピアノをメインにしたビート上で、以前より安定感が増した個性的なフロウが映える。


ニュース: YBS Skolaに関する記事が掲載されています。



IDK – Moral feat. Maxo Kream 


ビデオ公開日2018年10月24日
収録タイトルIDK – IDK & Friends
元ネタ

甘めな曲が続いているので、この辺りでややダークな曲を。Maryland州Prince George’s Countyのラッパー、IDK(Jay IDK)のこの曲で、気を引き締めよう。Texas州HoustonのラッパーMaxo Kreamを招き、両者共に芸の細かいラップを聴かせる。



Marty Baller – Be Me


ビデオ公開日2018年1月3日
収録タイトルInternational Baller
元ネタ

New YorkはHarlemのラッパー、Marty Baller。Trapをベースにしつつも、南部勢とは異なる今時のNYらしいサウンド。地味ながらも、ビート/ラップ共に一本調子にならないような展開が工夫されている。



Vado – Da Hated feat. Dave East


ビデオ公開日2018年4月23日
収録タイトルSinatra 3
元ネタTory Lanez – Hate to Say (VI Seconds- 330 AM, OneDirection – You & I)

同じくHarlemのラッパーVadoとDave Eastの共演曲。サンプリングについて、まず”One Direction – You&I (2013)”をサンプリングした” VI Seconds – 330 AM (2016)”という曲があり、更にこの”330 AM”をサンプリングした”Tory Lanez – Hate to Say(2018) “が本曲の元ネタになっているものと思われる。しかし本曲のプロデューサーPlay Picasso、 Bobby Made The Beat 、 Christian Louの三名は、”Hate to Say”を手掛けた制作陣でもあることから、本曲と”Hate to Say “は同一のビート(または一部のパートを差し替えた別バージョンのビート)である可能性が高い。
“You & I”の声ネタと、落ち着いた両者の語り口が沁みる。



Troy Ave – Who Im Becoming 


ビデオ公開日2018年12月26日
収録タイトルMore Money More Problems
元ネタ

New YorkはBrooklynのラッパー、Troy Ave。浮遊感あるサウンドで、程良い脱力感に包まれる。毎年リリース量が多い彼だが、2018年もMixtapeを3作リリースし、相変らず精力的に活動していたようだ。



Red Cafe – She A Bad One (Bad B**** Alert) feat. Cardi B  


ビデオ公開日2016年10月5日
収録タイトルLess Talk More Hustle
元ネタ

同じくBrooklynのラッパー、Red Cafeを続けて。2016年にリリースされた曲ではあるが、2018年にリリースされたMixtape”Less Talk More Hustle”に収録されたため選出。ギャングスタな主役のキャラにも痺れるが、何より”Bodak Yellow”以前の、荒削りながらもキレキレなCardi Bが素晴らしい。



Juicy J – Kamasutra feat. Cardi B


ビデオ公開日2017年12月1日
収録タイトルShutdafukup
元ネタ

Cardi B客演曲を続けて、Tennessee州Memphisのベテラン、Juicy Jのこの曲を。内容はさておき(笑)、両者の掛け合いのHookは中毒性が高く、Mike WiLL Made-ItとResourceによるビートとも好相性。Juicy Jは同郷以外の女性ラッパーとのコラボ自体が珍しく、新鮮な印象も受ける。



Moneybagg Yo – Bigg Facts


ビデオ公開日2018年7月23日
収録タイトル2 Heartless
元ネタ

同じくMemphisのラッパー、Moneybagg Yo。得意の曲名を連呼するHookが癖になる。これまでも彼の楽曲を多数手掛けてきたDMacTooBanginによる、 リードシンセが鳴り続けるビートも強烈。



Key Glock – Dope


ビデオ公開日2018年12月14日
収録タイトルGlockoma
元ネタ

こちらもMemphis出身のラッパー、Key Glock。ドロっとしたダークなTrapサウンドがこの地らしい。2018年はミュージックビデオを多数公開し、2017年のMixtape”Glock Season”でのデビューから、更に飛躍した1年だったよう。



BlocBoy JB – Rich Hoes feat. HoodRich Pablo Juan


ビデオ公開日2018年12月6日
収録タイトルDon’t Think That
元ネタ

更にMemphisのラッパー、BlocBoy JBを。小気味いいラップを聴かせる主役と、独特なしゃがれ声でラップするAtlantaのラッパーHoodRich Pablo Juan。大きな展開のない単調なビート上で、両者のキャラが際立つ。2017年に”シュートダンス”で話題となったBlocBoy JBだが、2018年にはDrakeの”Look Alive”を始め著名なラッパーの客演に招かれ、急成長を見せた。



Young Buck – Too Rich


ビデオ公開日2018年6月30日
収録タイトル10 Plugs
元ネタ

Tennessee州Nashvilleのラッパー、Young Buck。彼もまた、ベテランでありながら毎年精力的に作品を制作しているラッパーの一人で、2018年は3作の音源をリリース。真夜中のストリートのような、静けさと緊張感が漂うこの曲で、Tennessee勢が続いた流れに一区切り。



Sauce Walka – Family


ビデオ公開日2018年12月17日
収録タイトルSauce Ghetto Gospel
元ネタAlice Deejay – Better Off Alone

Texas州Houstonのラッパー、Sauce Walka。サンプリングされている1998年のユーロダンス曲”Alice Deejay – Better Off Alone” の浮遊感あるシンセが何より印象的だが、後ろへズレたタイミングで繰り出すラップも独特なノリを演出。手掛けるのも同郷のプロデューサーIceman Chamberlainで、Texas勢らしいユルさが楽しめる。



Mo3 – Word Around Town


ビデオ公開日2018年12月14日
収録タイトル911: Gangsta Grillz
元ネタIni Kamoze – World-A-Music

Texas勢を続けて、DallasのラッパーMo3 。こちらもTexasらしいユルさはあるものの、2018年にDallas出身のコメディアンRoy Leeが銃撃を受け亡くなった事件や、そのRoy Leeとビーフがあり同事件の黒幕と見られる(?)Yella Beezy(YellaもRoy側の報復と見られる銃撃を受けている)へのディスなど、現地のストリートの事情が盛り込まれている。メロディアスなフロウでありながら、ローカルギャングスタなキャラに痺れる。



Mozzy – No Choice feat. Rayven Justice


ビデオ公開日2018年3月1日
収録タイトル Spiritual Conversations
元ネタStwo – With You (Tinashe – Days in the West)

California州Sacramentoのラッパー、Mozzy。落ち着いた語り口の主役のフロウと、Oaklandのラッパー/シンガーのRayven Justiceによるコーラスが大人な一曲。”Tinashe – Days in the West “中の声ネタを使った”Stwo – With You”がサンプリングされている。



ZumBee – Funday Onna Sunday


ビデオ公開日2018年2月6日
収録タイトルRap Is Fun
元ネタ

Georgia州Atlantaのラッパー、ZumBee。曲名通り底抜けに明るいこの曲で、ダークな曲が多かった中盤の流れを一変。2018年にデビューMixtapeと思われる「Rap Is Fun」をリリースし、飽和状態とも言える同地のシーンで一際個性を放っていた。


ニュース: Zumbeeに関する記事が掲載されています。



K Camp – Nonchalant


ビデオ公開日2018年9月20日
収録タイトルThis For You
元ネタ

同じくAtlantaから、メロウ職人K Campを。彼の楽曲は毎度のことではあるが、音数の少ない綺麗なTrapサウンドで心地良い世界へ誘う。2018年は2作目のアルバム「RARE Sound」とMixtape「This For You」をリリースした彼。どちらもチャートインは逃がしたものの、ブレないスタイルを届けてくれた。



Zoey Dollaz – Moonwalk feat. Moneybagg Yo


ビデオ公開日2018年8月17日
収録タイトルWho Don’t Like Dollaz 2
元ネタ

Florida州Miamiのラッパー、Zoey Dollaz。2015年にFutureのレーベル「Freebandz」と契約し、ここ1、2年でメジャークラスのアーティストとの共演が増えてきた彼。知名度的には格上のMoneybagg Yoにも全く劣らない、安定感あるラップを聴かせる。


ニュース: Zoey Dollazに関する記事が掲載されています。



MoneyBagg Yo – Perfect B***h 


ビデオ公開日2018年4月18日
収録タイトル2 Heartless
元ネタ

MoneyBagg Yoの客演曲の後は、自身名義の曲をもう一度。決して綺麗とは言えない声でメロディアスなラップを聴かせるが、メロウなビートの上ではこのミスマッチさが味わい深い。制作も手堅い布陣で、これまでも彼の楽曲を手掛けてきたJavar Rockamoreと、808 MafiaからFuse 100がプロデュースしている。



T-Pain – Airplane


ビデオ公開日2018年8月17日
収録タイトルEverything Must Go Vol.1
元ネタ

ここで歌モノを挟んで終盤へ向けた流れへ。Florida州Tallahasseeのシンガー/プロデューサー、T-Pain。現行シーンの特徴を取り入れながらも、単に流行に寄せただけではないベテランらしいクオリティはさすが。



King Combs – Ain’t Nothin feat. CYN Trey Living, CYN Kai Ca$h & CYN Shaq


ビデオ公開日2018年4月13日
収録タイトル90’s Baby
元ネタ Aaliyah – Age Ain’t Nothing But A Number 

California州Los Angeles出身のラッパーで、あのP.Diddyの息子としても知られるKing Combs。故Aaliyahの名曲” Age Ain’t Nothing But A Number”を使い、Hookでは原曲のカバーも飛び出す。2018年は、本曲のような90年代中期~2000年頃のR&Bを使った楽曲/または当時のサウンドを思い起こさせるような楽曲が増え始めたように感じられた。



Kash Doll – F.W.U. Remix feat. La’Britney


ビデオ公開日2018年8月5日
収録タイトルThe Vault
元ネタGuy – Piece of My Love

Michigan州Detroitのラッパー、Kash Doll。同郷からシンガーのLa’Britneyを招き、”Guy – Piece of My Love”の替え歌が飛び出す嬉しい一曲。両者の優雅なキャラクター、スムースな西海岸風リードシンセ等、聴き所も多い良曲。



Paper Lovee – Here 4 Ya


ビデオ公開日2018年3月19日
収録タイトルWaiting to Exhale
元ネタK-Ci & JoJo – All My Life

Atlantaのシンガー/ラッパー、Paper Lovee。1997年にリリースされた”K-Ci & JoJo – All My Life”のあのピアノフレーズが何より印象的だが、そこへ重なるしゃがれた歌声が沁みる。ブルージーなサウンドがたまらない一曲。



Kash Doll – Lets Get This Money feat. Payroll Giovanni & B Ryan


ビデオ公開日2018年7月16日
収録タイトル The Vault
元ネタ

本プレイリストの最後は再びKash Doll 。同郷から、ラッパーPayroll Giovanni とシンガーのB Ryanを招き、三者それぞれの個性が光る。特にB Ryanのソウルフルな歌声が素晴らしく、こういったコーラスを起用する楽曲が増え始めたことも嬉しい。ビデオの最後にはPayroll Giovanniのプロポーズシーンが収められており、 Kash Doll周辺の地元勢の高い仲間意識も垣間見れる。



2018年のHipHopを総括!様々な面で新たな時代を予感させる動きが

今年も全25曲紹介してきたが、いかがだっただろうか。2018年のシーンは、ここ4~5年程続いていたTrapが主流の流れもいよいよ落ち着き、HipHopの原点に立ち戻ったようなサウンドがかなり増えてきたように思える。個人的には特に2000年頃のサウンドに近い楽曲が増えているように感じられ、同時にミュージックビデオ等で、”ドゥーラグ”や”NBA/NFLのジャージ”といった当時を思わせるファッションも増えてきた印象があった。勿論そういった回顧的な動きだけではなく、若手~次世代のアーティストも頭角を現し、結果として様々な世代やタイプのアーティスト/楽曲が入り混じった非常に面白い1年だった。

また、これまで無料のMixtapeを中心に活動していたアーティストが、有料のアルバムをリリースする動きもよく見られた。これは推測の域を出ないが、ストリーミングサービスの台頭により、有料の作品を購入せずに楽しめるようになった=無料Mixtapeの必要性が弱まったせいではないかと考えられる。皆さんが入手しやすいよう無料音源のみで作成している本企画だが、このような理由から今回はかなり選考に苦慮した。

それでも従来通り、2018年に知名度を上げたアーティストや露出が多かったアーティストをバランス良く選出し、全体の流れも意識して本プレイリストを作成。新たな時代へ突入したシーンの動向も気になるところだが、2018年のおさらいには是非活用していただきたい。