Renni Rucci ~ビートジャックで掴んだ女性ラッパーの転機~

Renni Rucci ~ビートジャックで掴んだ女性ラッパーの転機~
 

2017年にリリースされたCardi Bの“Bodak Yellow”以降、女性ラッパーたちの動きが活発だ。同曲は全米シングルチャート「Billboard Hot 100」において、98年のLauryn Hill以来となる女性ラッパー単独名義での首位を獲得し、ここ日本でも大きな話題となった。

それ故、良くも悪くも“Cardi Bフォロワー”と思えてしまう存在が少なくない昨今のシーンだが、そんな中で筆者が注目しているのはRenni Rucciというラッパーだ。すでに週刊新譜る10「2019/3/20~27日分」にて”Act Funny”を、 「2019/5/29~6/5日分」にて“Elevators”のミュージックビデオを選出してきたが、ここで改めて彼女について紹介していきたい。

South Carolina州Irmo出身で現在28歳、2児の子を持つ母親でもある彼女。映像によっては一見白人のようにも見えるが、アイリッシュ系の父親とアフリカ系アメリカ人の母親の血を引いている。




彼女が注目されるきっかけとなったのは、2017年。まさに前述の“Bodak Yellow”をジャックした“Bodak Yellow Remix”だった。ラップ自体はまだ荒削りな印象を受けるが、あの癖の強いビートを無名に等しい女性ラッパーがここまで乗りこなせれば話題になるのも納得だ。強気でボースト系なリリックと、Cardiよりもラッパーらしい(というのも曖昧な表現だが)声質も、この段階にして十分な魅力を備えていたように思える。Cardiと同じようにダンサーとして生活費・スタジオ代を稼いでいた彼女にとっては、「私も負けていられない」という思いも強かったであろう。




翌年2018年3月には、アトランタに拠点を置きあのMigosらも所属する(更に言えばCardiのマネージメントも請け負う)レーベル「Quality Control Music」と契約したことが報じられた。その後「管理人が活用しているHipHop/R&Bサイトはどこ?」でも取り上げた人気サイトWorldstar HipHopからミュージックビデオを頻繁にリリースすることとなる。下積み時代はあったにせよ“Bodak Yellow Remix”からほんの半年~1年程度の間に大きな飛躍を遂げ、同時にラップの安定感も格段に増してきた。”Shook”では、ダークなTrapビートにも埋もれないキレのあるフロウを聴かせる。




2019年5月には、恐らく初のまとまった音源である「Big Renni」をリリース。Quality Controlではなく「Wolf Pack Global Music」なるレーベルからのリリースとなっているが、QCの傘下、または関連レーベルではないかと思われる。同作は10曲という控えめなボリュームながら、Trapから西海岸に寄せたサウンドまで意外と楽曲のタイプは幅広く、中だるみせずに楽しめる。特に女性シンガーがコーラスを歌う” For Ever Mine”は、従来の彼女には無かったスムースな曲で味わい深い。

Renni Rucciは、Cardi Bのような劇的なキャッチーさは無く、人によっては物足りなさを感じるかも知れない。言い換えれば、女性ラッパーなりの成り上がり人生やその価値観をひた向きで落ち着いたトーンでラップしているように感じられ、Cardiが陽ならRenniは陰と、境遇は似た両者であってもラッパーとしてのキャラクターは対照的と言える。この辺りは注目される以前から子を持つ親であった=背負うべきものがあったことが影響しているのかも知れないが、そんな彼女だからこそ、今後どのような楽曲を届けてくれるのか楽しみである。